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20131209Mon
 >放課後、海を見に来たけれど

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夏は、ひっそりと、続いていたのですよ。

前→「放課後、海を見に行くつもり



痛い。めっちゃ痛い。すっげー痛い。
え、何、何なの、海ってこんななの? ドSなの?
砂砂砂。風に吹かれた砂が次々ぶつかってきて、メガネのレンズがバッチンバッチン鳴る。
もしかしなくても、レンズ結構傷付いてるだろうな。
押さえてはいるものの、髪も風に吹かれるままボサボサになっている。
ボサボサになるだけならまだしも、自ら意思を持ったかのように動き、
オデコに頬にと容赦なくセミロングの鞭が叩き込まれるんだからたまったもんじゃない。
耳元では風の吹きすさぶ音がする。びゅごごごうごごごう。当然、耳の穴にも細かい砂が入ってくる。
そんなひどい暴風に耐えて海を見たところで、もう暗くなり始めていて、ろくに景色は見えない。
見えたところで、ただの小さな港だし、眺めなんて良くないのは知っている。
手をかざして顔を守るが、今度はむき出しの腕に容赦なく砂が襲い掛かってくる。どうやってもどこかは痛い。
そこまでして私が果敢に海の方を見ようとチャレンジしているのは、
海に向かって走る先輩の、スカートがチラチラリとひるがえるのを少しでも眺めていたいからだ。
いいぞ、頑張れ、風。もっとやれ、風。そして、出来ることなら私には吹くな。
トライアスロン選手が海に突っ込んで行くときのような勢いで走る先輩。
放っておくとオーストラリアあたりまで平気で泳いでいってしまいそうだったので、
とりあえず呼び止めようと、手を口の横に当てて叫ぶ。

「せんぱーい! シロせんぱーーーい!! ってうわオエッ! ゲェッゲッホ!!」
「あははははははは! すっげえ! たのしい!」

砂がノドチンコを除夜の鐘のごとくガンガン鳴らすもんだから当然むせた。
舌の上に砂が乗って嫌な感じの感触、勝手に唾が溜まってくる。
根っからの文化系である私の声など、この暴風に掻き消えるしかない。
かたや先輩の声はこっちまでストレートに飛んでくる。幽霊部員とは言えさすが演劇部。
殺人せんとや襲いくる風砂をものともせず、両手を飛行機のように広げたまま浜辺を元気に走り回っている。
多分あれだ、先輩は実写版のアラレちゃんか何かなんだろう。
首が外れても全力で笑ってそうなところがよく似てる。

「これたぶん飛べるよー! ミトもおいでよ!」
「無理です! 人類は自力では飛べません!」
「アーイキャーンフラーイ!!」
「戻ってきてーーー!! ウゲッゲェッホグェッ!」
「うわっ今浮いた!揚力!?これ揚力ー!?」
「ちがワオエェェッ!!」



私たちの通う高校から20分も歩くとこの海に出る。
海と言ってもごくごく小さなヨットハーバーと、
中途半端にコンクリートで固められた砂浜があるだけなんだけれど。
学校の周りにはほとんど何もない。
先輩はこの街に住んでいる。自転車通学。
コンビニとカラオケ屋くらいしかない街だ。
映画館とゲーセンと本屋と定食屋と駅前のスーパーは潰れた。
商店街もほぼ壊滅している。ビジネスホテルだけは供給過多。
そんな街から電車で30分かかる私の町には、もっと何もない。
テレビはあるラジオもある車は結構走ってる。でも、何もない。
田舎だったりすると自然があったりするのだろうけれど。
家と道路と駅と学校くらいしかない場所で、私たちは過ごしている。

「ミト! あれ見て! クジラ!!」
「マジっすか! って、痛い痛い痛い!! 目ぇ入った!!」
「いるわけ、ないだろー! あははははは!」
「おい!てめえ!シロ!くっそ、ふざけんなこらー!!」

風音で聞こえないのを幸いと暴言を吐いてみた。
どうしよう勢いで呼び捨てにしちゃったぜ、と気付いて口の端がムニョムニョっとなる。
しかし、次から次に風風風だ。飽きた。先輩以外の景色に飽きた。
ぬあああああん、本能が鳴らすままに呻き声を上げながら、海に背を向けてうずくまる。
ダメなのは分かっているが我慢できずに、メガネを外してゴシゴシと目をこすった。
拭っても拭っても涙が止まらず、目尻から砂がポロポロこぼれる。
天気は良くとも、こんな風の強い日なんかに海に来るんじゃなかった。
とは思いつつ、先輩の太股は、しかと網膜に焼き付けることができた。
現状よりさらなる視力低下とひきかえに、私はひと夏の思い出サマーメモリーを手に入れたのだ。
ああ、まばたき一発で脳内メモリに画像が保存される機能が早く開発されないものだろうか。
出来れば先輩が制服を脱いでしまう前に。
頑張れSONY。頑張れNASA。私の高校生活の充実度は諸君にかかっている。

などと煩悩でショートしそうな脳でバチバチと細かい砂のぶつかるのを感じていると、
突然、ひときわ大きいものがボスッとぶつかってきた。
シャツ越しに感じるそれは、すごく熱くて、ちょっと湿ってて、ゼエゼエ言ってて、
つまるところ、先輩だった。
二の腕が異常に熱いと思ったら、先輩が手を置いていた。
先輩の荒い息がちょうど首筋に当たり、「ひっ」と言ったまま固まる私。
もしも今瞬間移動したら私の形の膜が残るであろうほど、全身の毛穴からぶわっと汗が出た。
いつの間にか風の音なんて聞こえなくなっていた。
心臓って耳の後ろにあったんだ。ババババッババババッ、って音がする。

「……ほんと、つまんないとこだよなー」
「そ、そんなことない、ですだよ」
「ですだよって何だよ」
「いや、その、あれです、突然だったので、驚いたのです」
「あはは」
「つまんなくないですよ」
「なんで?」
「だってほら、……先輩、いますし」
「ぬふふー。愛いやつめ」

先輩のオデコがグリグリと押し付けられるのを背中で感じた。
ひゃー、なにこれ、夢? 夢なら覚めるな、現実なら終わるな。
今すぐ氷河期になって現場が冷凍保存されちまえ。
だって今この瞬間が私の人生の最高潮です。

「ねぇミト。お願いがあるんだけど」
「へっ」

……あ、これ、キスだな。キスだわ。間違いない。
だって夏だもん。そういう感じだもん。
耳の後ろの心臓が、ドガガガガガガガガガという音になった。
骨伝導スピーカーでハイテンポのドリルンベースを聴くとこんな感じだろうか。
自分が生唾を飲み込んだのだけは分かった。
ひとつ大きな息をする。覚悟は決まった。
先輩の手が腕に置かれていなかったら、きっと倒れていたと思う。
うまく声が出なくって、小さく頷くのが精一杯だった。

「あのね」

手が離れた。すごく熱い。
先輩の顔を見ようとして後ろを振り向

「……もっと私を楽しませろー!!」

洗練された無駄のない動きで、スルリと羽交い絞めにされ一緒に反転。海のほうを向かされた。
使っている技術と力には熟練のものを感じるが、やってることは完全に悪餓鬼レベルだ。
先輩、少しはコナン君を見習ってください。そして出来れば私のトキメキも返してください。
乙女ドキドキのキス待ち顔にバッチンバッチン豪速球の砂粒。

「いぎゃあああ! いってええええ!!」
「ナイス! ナイスリアクションだよ!!」
「いたいいたいいたい!!いたいって!」
「あはははは! うわっ、ミトの髪、超いってえ! これ止めろよ!」
「ちょっと!先輩こそ!やめてください!放してって!
 やめろ!やめろっつってんだろおおお!!」
「ぎにゃああああああ!!」

防衛本能とは恐ろしいものだ。
格闘技の経験など微塵もない私が、完璧な首投げで先輩を地面に叩き付けていた。
ビターン!といい音を鳴らしてコンクリートに叩きつけられた先輩。
満面の笑みのまま、肺の空気が漏れるドゥフッという息を吐き、そのまま動かなくなった。
慌ててしゃがみ込むと先輩の上半身を抱き起こした。

「先輩!すみません、つい!」
「……ミト、腕を上げたね。私が教えることはもう何もないよ」
「何ひとつ教わってない気もしますが、大丈夫ですか?」
「最後に、ひとつだけ、聞いてくれる?」
「最後なんて寂しいこと言わないで下さいよ! 何ですか!?」
「腹減った」

先輩のオデコにとどめのチョップを叩き込んだ。




「っしゃいませー! って、シロか。……なんでそんなボロボロになってんだよ」
「こんちゃあ。2人なんですけどー」
「余裕余裕。お前らの貸切だよ。テーブルどうぞー」

先輩に連れられて入った、海から駅までの商店街にあるラーメン屋。
相当年季が入っているらしく壁も床も油でツルツルしているが、不潔なわけではない。
ほぼ正方形の小さなテーブル。私が壁側に座った。
私にメニューを渡してくれたあと、先輩はバンドマン風の店員さんと雑談をしている。
この店にはかなり頻繁に来ているようだ。
学校では孤高のポジションのくせに、人当たりが良い先輩には校外の知り合いが多い。
演劇部所属で他に音楽もやってるので、学校近くのライブハウス界隈では特に。
おそらく店員さんともその関係で知り合ったといったところだろう。
テーブルにグラスがコンコンと置かれた。

「ご注文は」
「3点盛と、ギョーザください」
「半チャーハンをお願いします」
「お前ら張り合いねえなー。もっと食えよ」
「女子高生はなー、霞を食って生きてんだよー」
「3点盛とギョーザ頼んだ直後に言わないで下さい」
「おっ、良いツッコミするね」
「今度この子と組んで吉本のオーディションを」
「受けないです。えと、長瀬 弥刀(ながせ みと)といいます」
「千代崎 白子(ちよざき しろこ)です」
「お前のことは知っとるわい」
「2人合わせてー」
「以上でお願いします」
「ありがとーございまーす」

私とお兄さん、初対面とは思えぬ連携スルー。
3点・ギョーザ・半チャー! とお兄さんが私たちの注文を繰り返した。
1人しか居ないのにわざわざ復唱するのかと不思議に思っていると、
カウンター内で死角になっていたところからおじいさんがヌッと現れ、私のチャーハンを作り始めた。
美味いチャーハンの登場がほぼ確定した手さばきだった。
料理を待つ間は何を話すわけでもなく、2人でボーッと、店の隅っこのテレビを眺めていた。
ビートたけしがピコハンで所ジョージを叩いている。
普段は家で観るような番組を先輩と一緒にラーメン屋で眺めるというのはかなり新鮮で、嬉しかった。

すぐに3点盛が登場。追っ付けギョーザとチャーハンも出てきた。
めちゃくちゃ美味しそうだった。ぐるなびの5つ星では判定しきれないものが世界には無限にある。
じゃあ、まぁ、ね、はい、なんて言いながら水で乾杯してみた。
何だか妙で、2人でニヤニヤしてしまう。割り箸をパキリ。

「ギョーザ半分こね。酢胡椒で良いでしょ」
「あっ、あ、はい」
「あとチャーシューとタマゴも半分あげる」
「ありがとうございます」
「なので、ご飯を少しください」
「霞を食べてるんじゃないんですか」
「女子高生の半分は炭水化物で出来てるんだよ」
「あとの半分は何なんですか」
「……水分?」
「それ多分、うどんです」

カウンターの影で「ブホッ」と、おじいさんが吹き出す音が聞こえ、
思わずそちらを見やる私と先輩。お兄さんが軽く肩をすくめた。
先輩がニシシと笑った。私の大好きな顔で。
ピコッ。ふたたびテレビからピコハンの間抜けな音。
わざとらしいスタジオの笑い声に、つられて笑った。2人で笑った。
けどなんだかキュウと苦しくって涙がポロポロ出てくる。
笑ったまま「砂がまだ残ってて」と言ってごまかした。



アルプス「まあるい」


クララのブログで知った曲。
もう、冬になっちゃったねぇ。



  

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このブログのタイトルは OFZK です
ソントン という人間が書いています
だいたい本を読んでいます





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