20131012 Sat
アールグレイヒットマン


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20年前。

男の子がいた。ヒーロー番組が大好きだった。
「悪者は僕がやっつける」
いつか誰よりも強い力が欲しいと思っていた。

女の子がいた。世界の偉人伝が大好きだった。
「困ってる人は私が助ける」
いつか世界中で優しさを与えたいと思っていた。

男の子の名前は、桐原神話 (きりはら しんわ)。
女の子の名前は、内海青痣 (うちみ あおあざ)。

神話がケンカして怪我をする。
青痣が怪我の手当てをする。

2人は仲の良い幼馴染。



20年後。

神話は困ってる人を助けている。
青痣は悪者をやっつけている。

男の子は、神父になった。
女の子は、殺し屋になった。

今でも2人は仲の良い幼馴染。



「神話ちゃーん、ごめーん」
青痣の間の抜けた声が、池袋駅東口地上に響く。
休日の池袋駅前なんてとにかく人が多いので、青痣の大声程度では誰も振り向きはしない。
しかし、約束のしばらく前に到着していた神話には、ちゃんとその声が届いた。
短くなったタバコを最後に一吸いすると灰皿に捨てる。
煙を追って神話が見上げた空は、10月なのにまるで夏空のように青かった。

視線を戻すと、一生懸命に走っている青痣が見えた。
白地に黒いバラの模様が入ったワンピースだった。
走っているくせに、周りの歩行者よりスピードが遅いのは気のせいだろうか。
反対から歩いてくる人を無駄によけては別の人にぶつかっている。
青痣は、なんとか信号が変わる直前で神話の待つ喫煙所の島にたどり着き、
とてててて、と『サザエさん』のタラちゃんと同じ音が聞こえるような歩き方で、
「あべしっ」
見事に転んだ。
よくこれで殺し屋とかやってられるよなー、と神話はいつものように思う。
しばしの後、身を低くしたままでバッと起き上がり周囲を確認する青痣。

「今の、何ていう兵器!?」
「アスファルトの段差だよ。あとベレッタしまってくれ」

えへへ、と青痣は笑いながら愛用の拳銃をハンドバッグの中にしまった。
神話の差し伸べた手を、青痣が掴む。

今日、神話が久々に青痣と会ったのは、
最近お気に入りの店に一緒に行こうと誘われたからだった。
晴れてよかったなぁと神話は思う。
横を歩く青痣は楽しそうに鼻歌を歌っている。

「青痣さんや」
「なんじゃらほい」
「なんか今日機嫌良いよね」
「ぐふふのふ。聞いておくれよ神話さん」
「え、どしたん」
「ばばーん! 年末のPerfumeライブ、先行が当ったりましたーい!」
「……へー」
「うっす! リアクションうっす!」
「いや、ごめん、俺あんまパヒューム興味ないから」
「話し振っといてなんだよー。ちょっとは食いつけよー。
 あとパヒュームじゃなくてパフュームだよー」
「えっ、マジで!? スッゲーなー、おめでとう! チョッコッレイトッディスコッ!」
「……神話ちゃん、頭吹っ飛ばすよ?」
「すみませんでした、本当に」
「もー、乙女心は手榴弾と同じくらい丁重に扱ってよね」
「なにその例え」

駅を離れてからもメインの通りを歩いているせいか、人の多さは全く変わらない。
1人のときより随分とスピードを抑えて歩く神話の横で、
青痣は懲りずに、人を避けては他とぶつかって、そのたびに小さく謝っている。
このままだとかわいそうだなと、自販機を探しがてら脇道に入った。
助かったよ人酔いするかと思ったよ、とミネラルウォーターを買いながら青痣が言う。
このまま脇道を通って行けないものかと、向かっている店の場所を教えてもらう。
池袋の土地勘はおぼろげだが、急ぐわけでもないし、
全ての道は青痣のお気に入りの店に通ず、と神話は1人考えてニヤッと笑った。

「青痣の方はどう最近、仕事とか」
「うーん、まぁそこそこかなぁ」
「大変じゃない? ちゃんと人を殺すのって」
「まーそれが仕事ですからねー」
「神話ちゃんこそ大変じゃないの? 人の話を何でもニコニコ聞かなきゃいけないんだから」
「まーそれが仕事ですからねー」

2人で「ぐへへ」と笑いあった。
大きい交差点に出て信号が変わるのを待つ。
交通量は多いものの、休日のためかトラックは少ない。
首都高の影に入るため随分と涼しい。
薄着の青痣は大丈夫だろうかと様子を窺うが、むしろ暑そうにハンカチで顔を扇いでいた。
やがて信号が変わる。きちんと左右を確認するのは青痣の癖だ。神話はいつもワンテンポ待つ。
私はさー、と青痣が横断歩道の白いところだけ踏みながら話し始めた。

「今から行く店の紅茶がすごく美味しくってさ、
 飲むと嫌なこととか忘れちゃうんだよねー」
「へー、そりゃ良いッスね」
「だから神話ちゃんにも教えてあげようと思って」
「うん、ありがとね」
「神話ちゃんはさー、ストレス解消ってどうするの」
「コーヒーと、タバコと、……エロ動画?」
「不良神父! 地獄に落ちろー!」
「酒は止めたから、地獄には落ちないよ」
「屁理屈っ!」

神話ちゃんも普段色々コーヒー飲んでるけどさー、
紅茶ってさ、ほんとビックリするくらい種類があるんだよ、
そのお店にも色々メニューあるから、私がオススメ選んであげるね。
という青痣の話を半分に聞きながら、パヒュームなら俺はのっち一択なんだけどなー、と神話は思う。
のっちの太股に挟まれて死ぬなら地獄に落ちてもいいかもなー、と。

店が見えたのだろう、青痣が走り始めた。スピードはほとんど変わらないのだけど。
おそらく、店の手前くらいでまた青痣はコケるだろう。
そんなに人通りも多くないから大丈夫だろうけど、神話は一応足を速める。

もう神話はケンカをしない。青痣が手当てすることはない。
ただ、青痣がこけたら、神話がその手を取るのだ。

2人は仲の良い幼馴染である。



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