20131016 Wed
10/16


tumblr_m4eeq3igMe1qzhnmco1_500.jpg

どんな流れだったか思い出せないのだけれど、
なぜか7年後の東京オリンピックのことに話題は移り、
“自分が7年後に何をしてるか”とお互いに質問をする形となった。

俺はしばらく悩んで「生きてるか・死んでるか、のどっちか」と答えた。
錆(さび)は悩むそぶりも見せずに「現状維持」と即答した。

場所は町外れ、駅から随分歩いたところにある、
元・教会の廃墟を利用したという喫茶店だった。肝心の店の名前は忘れた。
教会の建物ということもあり、梁の近くで雲が出来るほどに天井が高い。
なので、室内だけれど雨が降る。
外は台風一過。窓から見える空にはいくつかのうろこ雲が流れるだけとなっているが、
我々はビニール傘をさして、梁にかかった薄雲がしとしと落とす雨を避けながら、
梁の埃が混ざったか知らんが苦味の深いコーヒーをすすっていた。

「寝癖さんはあれッスね」と何かを言いかけて、いきなり錆はむせた。ゴヒャッゴヒャッ。
かつて登場二言目のセリフで咳き込む主役が居ただろうか。
そんな俺の心配をよそに咳の間をぬってグラスの水を飲み干す錆。
ゴヒャッゴヒャッ。止まらない。

「大丈夫か」
「大丈夫ッスゴヒャッゴヒャッ」
「ぜんぜん大丈夫じゃねえじゃん」
「いえ、現状は大丈夫じゃないですけど、つまり、大丈夫になる見込みがゴヒャッゴヒャッ」
「落ち着いてから喋れよ。すみませーん!」

せーん せーん せーん

高い天井に俺の声が響き渡る。
ちょっとボリュームをミスったなぁと自然頬が赤くなった。
俺のエコーとクロスオーバーのタイミングでウエイトレスがフェードインした。

「はいよおまちどお」
「この子に水をあげてください」
「ゴヒャッゴヒャッ」
「かしこまり」

ジョロロロロロロと、錆のビニール傘に向けてジョウロで水をそそぐウエイトレス。

「ありゃま撥水じゃん」
「そうじゃねえよ」と、礼儀としての突っ込みを入れた。蹴りで。

無事にピッチャから注がれた水をカツーン!カツーン!カツ-ン!と
すわ新歓コンパかと思うような勢いで三連続一気した結果、錆の咳は無事に止まった。
「えくすきゅーぜもあ」とスカートの裾を摘んで礼をし、
持つ角度のおかしいピッチャからじゃばじゃば水がこぼれるのも気にせず、
ウエイトレスは元懺悔室へと消えていった。

「……良い、ウエイトレスさんですね」
「お前どっかズレてる」
「寝癖さんほどではないッス」
「そうか?」
「あ、虹ッスよ」

ステンドグラスから差し込む七色の光が室内に降る雨に反射し、
この店の名物でもある、49色の虹がかかっていた。
七色の虹を見慣れた目には、49色の虹はまるで、
家のゲーム機がファミコンからいきなりPS3に変わったくらいの衝撃があった。
そんな虹をほげーっと見ていたふたりはいつの間にか話すことが無くなってしまった。
しばらくののち、錆が傘をさしたままで立ち上がると、
ところどころ苔の生えてる本棚から図鑑のような大きい本を1冊抜き出してきた。
長年ここで雨に降られてきたのだろう、ページは水分を含んでたっぷりとした手触りだ。
だが草むらのエロ本とは違い、ページ同士が引っ付いて捲れないということはなかった。
自分、落ちぶれても、図鑑ですから。という声が聞こえた。
エロ本とは、紙質が、違いますから。

キリル文字で書かれたアラビア語にしか見えない本文はひとつも解読できなかったが、
綺麗なものから薄汚いものまでたくさんの昆虫の写真が載っていた。
「このナナフシ、ゴツイな」
翅を広げて虫ピンで止められた、大きいバッタにしか見えないナナフシの写真を指差す。
「翅がまるでベトナムのお土産ッスね」
言われて見るとたしかに、ベトナムな感じのビニールっぽかった。
「蝶が載ってないのがちょっと残念ッス」
「こんだけ写真載ってるのにね」

錆が本を閉じると、べしょり、と音がした。
いつの間にか冷たくなっていたコーヒーを飲み干す。
溶け残った砂糖とわずかばかり埃が残ったカップの底には、
“so it goes”、美しい筆記体。



THE YELLOW MONKEY「楽園」



コメント


コメントフォーム

 管理者にだけ公開する

 
OFZK


zack villere「cool」

booklog (→all)


 日記 (631)
 つくり話 (25)
 音楽ログ (1)

 2017/08 (13)
 2016/12 (9)
 2016/11 (18)
 2016/10 (1)
 2016/09 (7)
 2016/08 (4)
 2016/07 (9)
 2016/05 (3)
 2016/03 (12)
 2016/02 (19)
 2016/01 (16)
 2015/09 (1)
 2015/08 (9)
 2015/07 (1)
 2015/06 (14)
 2015/05 (11)
 2015/04 (9)
 2015/03 (14)
 2015/02 (14)
 2015/01 (12)
 2014/12 (10)
 2014/11 (8)
 2014/10 (10)
 2014/09 (30)
 2014/08 (15)
 2014/07 (13)
 2014/06 (22)
 2014/05 (23)
 2014/04 (25)
 2014/03 (23)
 2014/02 (17)
 2014/01 (17)
 2013/12 (18)
 2013/11 (15)
 2013/10 (21)
 2013/09 (8)
 2013/08 (19)
 2013/07 (18)
 2013/06 (19)
 2013/05 (25)
 2013/04 (28)
 2013/03 (24)
 2013/02 (6)
 2013/01 (4)
 2012/12 (6)
 2012/11 (5)
 2012/10 (7)
 2012/09 (2)
 2012/08 (11)
 2012/07 (12)

OFZKed by sonton



adimin