20140211 Tue
水の中で目を開ける


髪を洗っているとき、シャンプーの泡が少し入ったらしく、
右目が痒いような痛いような、そんな感じでヒクヒクと痙攣を始めた。
目を開けようにも引きつって上手くいかないし、閉じるとピリッとした痛みが走る。
シャワーから出るお湯をできるだけ手にためて右目をつけ、
お湯の中で何回かまばたきをすると徐々に異物感は取れていった。
右目以外は外に出てるのに、知らないうちに息を止めていてしまったのがなんだか面白かった。
メガネもコンタクトもせず花粉症もない僕は、目を水につけるという機会がない。
泳ぐときくらいしか水の中で目を開けるなんてないのだけれど、
スポーツジムに通っているわけでもなく、前回泳いだのがいつだったのかなんてもう覚えていない。

今日はバイトの休みと祝日が重なってしまい、
人の多いところへでかけるのも億劫に思っていたところだったので、
風呂から出たあと何となく、家の近くの100均で洗面器を買ってきた。
洗面台蛇口下に置いて、湯をためていく。
ドボボボという音を聞きながら、どこかでこんな話を読んだことがあったなとふと思い出した。

少し前にTwitter上で友人が「面白い短篇小説があれば教えて欲しい」と呟いていた。
僕はその友人のことを充分に知っているわけではないのだけれど、
ミランダ・ジュライ『いちばんここに似合う人』なんて気に入ってもらえるんじゃないかな、と思った。
ミランダ・ジュライは小説に留まらず様々な表現活動をしているアメリカの女性作家だ。
まとまった邦訳作品集は今のところこの1冊しか出ていない。
短篇小説が16作品収録されているが、その中に「水泳チーム」という話がある。
プールの無い砂漠の町で、老人たち相手に水泳のコーチをする女性の話だ。
どうやって水泳を教えるかというと、水を溜めた洗面器を各人の前に置き、
そこに顔をつけたままバタバタとクロールの手振りをつけ、息継ぎの練習をさせるのである。
どういうオチだったかは忘れたが、その光景は想像するだに哀愁漂う滑稽さで、
強烈に印象に残っている。他の短篇も全て面白かった。

ただ、そのとき友人は旅に携帯する本を探しているようで、
四六判ハードカバーの新潮クレストブックを薦めるのは憚られたので何も言わなかった。
友人は何の本を持って旅行へ行ったのだろうか。
もしくは本は閉じて膝の上、ただ景色を眺めていったのかもしれない。

もう数年間、その友人から何冊かマンガを借りっぱなしになっていて、
なんだか連絡するタイミングをとりそびれたまま、いまだに手元に置いてしまっている。
借りたマンガ家には他に『黄色い本』という1冊がある。
そういえば『いちばんここに似合う人』も黄色に黒のゴシック体というとてもシンプルな装丁だ。
ここで買ってきた洗面器が黄色だったとしたら気の効いたオチにもなろうが、
残念ながら無難に水色を買ってきてしまった。

洗面器の3分の2程たまった湯に水を少し足してぬるめる。
水を止めてたっぷりと息を吸い込み、そこへ顔をつけた。
おそるおそる何度か細かくまばたきをして、目に水を慣らす。
ゆっくり目を開くと浅い洗面器の底、円形の模様、水色が迫ってきた。
底についた前髪が海草のように揺れるのが視界に入る。
口の端からポコポコと水を吐きながら、
ああ、タオルを準備するのを忘れてしまった、と気付いた。


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