20140429 Tue
土岐青磁と土岐琥珀


ちょっと聞いて下さいよ。
この前「また短篇小説みたいなの書いてよ」って言ってもらえて、
飛び上がるほど嬉しかった話はしましたけど、
今回はなんと「(前に書いたやつを)また読みたいんだけど」って言ってもらえたのよ!
大好きな野崎まどさんと文体が似てるって言ってもらえたのよ!!
これであと三年は生きられる。

で、折角嬉しいこと言って頂いたわけだし、
ツッコミ・永島寝癖へのリンクを貼るだけじゃあれなんで、
新しいの書こうとしてたら遅くなっちまった。あいすいません。

0 「(永島寝癖、鉄錆)
0.5 「(まだ名無しだけど、往来生命)」 
1 「椿絵空事
2 「本野紙魚

※はじめに言い訳。
当然ですが現実世界では、聴覚障害があっても騒音や振動は普通にストレスになります。
以下はいつもどおりの作り話ですが、もしも設定が不快でしたらご指摘ください。
勉強して書き直します。

-----------

10分ほど遅刻してしまった。
引き戸を開けるとただでさえ狭い店内は今日も満席。
という中、不機嫌そうに腕を組み、
全身からイライラを放出している錆がど真ん中のテーブルに座ってこちらを睨みつけていた。
完全に目が合ってしまったが、悪あがきで視線を逸らしてみる。
平面図だと直角三角形の建物。入り口を底辺とすると反対側の角にはカウンター、
その脇の定位置に立っている琥珀が僕に気づいたらしく、可愛らしい笑顔でペコリと頭を下げた。
女性客で埋まったカウンターの向こうでは青磁が黙々とコーヒーを入れている。

錆との待ち合わせに指定した店の名は“△”。僕が知っている中でも最悪の立地にある喫茶店だ。
ひっきりなしに大型トラックが通る五叉路の真ん中に、取り取り残されたようにして建っている。
元々は農地だった一帯で倉庫として使われていた建物らしいが、地上げに次ぐ地上げの結果、
なぜかこの場所だけが交差点の真ん中に残る結果となった。
あげく上空には高速道路が通り、近くの空港からは国際線が飛び立ち、
周りに建つビルはどこかで常に工事ともなれば、
四六時中、フルテン大騒音の真っ直中ということになる。

そんな辺鄙な場所で喫茶店をやっているのは青磁と琥珀の土岐兄妹。
騒音ですぐにノイローゼになりそうなものだが、兄妹は二人とも生まれついて全く音が聞こえない。
騒音の大洪水の中、接客担当の琥珀は春の日差しのように優しく、
調理担当の青磁は静かに職人技を披露している。

働いている当人たちが良くても、客はどうか。
長時間座っていると頭痛がしてくるのも確かだが、
しかし、突き抜けた轟音はどこか静けさと通ずるものがあり、
しばらくして騒音に鼓膜が慣れてしまえば妙に居心地が良くなってくる。
ノイズという音楽ジャンルがあるのもなんだか分かるような気がする。

豆を選ぶ段階からかなりこだわっているコーヒーが美味い、というのは当然ながら、
この店が人気なのは他にも理由がある。
単純に、土岐兄妹が美男美女なのだ。
おかげで毎日、カウンター席は青磁目当ての女性客で満席、
テーブル席には琥珀の笑顔に癒しを求めて男性客が詰めかけ繁盛している。


申し訳ない、という気持ちを全面に押し出した手刀を切りながら、錆の向かいに腰を下ろした。
琥珀がサッと水を持ってきてくれた。癒し全開のプリティスマイル。
かたや錆は相変わらず地獄を想起させる表情。
二人の間で台風が生まれそうな気圧差だ。

メニューも広げず「3番」と注文した。
騒音にかき消されて声はまったく通らないが、
琥珀の目を見てゆっくりと言えば、大抵は伝わる。
ニコリと頷くと、首からさげた小さな鏡で光を反射させて、
カウンターの向こうに合図を送った。
顔を上げた青磁に、指を3本立ててオーダーを通す。
僕に気付いた青磁が笑顔で「よっ」という感じに片手を挙げた。僕もそれに応えて手を挙げる。
青磁は普段厳しい表情をしているだけに、たまに見せる笑顔の効果がすごい。
案の定、ズダーンと椅子が倒れた。
今日もまた一人、カウンター席のご婦人がやられたようだ。
慌てて琥珀がカウンターの方へ戻っていく。
世が世なら、将軍の寵愛を受けて一生何不自由なく暮らせそうな女の子。
まぁそんな将軍は、超シスコンの青磁が叩き斬るに違いないけど。


さて、いつまでも美兄妹を目の保養に眺めているわけにはいかない。
目の前で爆発寸前となっている火山を鎮めることにする。
恐る恐る錆の方を見るとものすごい不機嫌な顔のままで、
口だけが、フヒ、と動いた。

残念ながら土岐兄妹と違って、僕には読唇術の心得がない。
錆が何を言っているのか分からず、思わず眉間に皺を寄せてしまう。
言葉が伝わらなかったことでさらに錆の機嫌が悪くなるのが手に取るように分かった。
いかん、このままだとテーブルの一つや二つ、簡単にちゃぶ台返されてしまう。
持ちうる全ての集中力と洞察力をつぎ込んで錆の口元を凝視した。

 フ ・ ヒ

分かってはいたけど、だめだった。
ずっと、フヒフヒ、言っているようにしか見えない。
口の中の何かを冷ましているのか? いや、テーブルには冷めたコーヒーしか乗っていない。
ムヒ? どこか痒いのか。
浮き? 釣りが趣味ではないはず。
クッキー? 琥珀が作るクッキーは悪い意味でヤバイ。
ウッキー? 猿? 猿なの?
うじき? えっ、今? 

突如、直感が駆け抜けた。

「お……、お前まさかそれは、好」

ビスッ。目潰しされた。超痛い。
なぜこういうボケだけは伝わってしまうのだろうか。

周りの轟音のせいで向かいあった席にさえ声が届かない。
声に頼っていると、目潰しまではいかずとも、不毛なやりとりが起こってしまう。
それを防ぐために各席には筆記具とやや大きい付箋が置いてある。
文房具好きの土岐兄妹が選んだ道具はかなり使いやすい。
ちなみに妹はLAMYのボールペン・サファリ(ホワイト)をポケットに差し、
兄貴はペリカンの子供用万年筆・ペリカーノジュニア(グリーン)を愛用している
(いまどき耳に鉛筆――しかもこだわりの三菱Hi-Uni2B――を挟んでいる人間を、僕は青磁しか知らない)。

おもむろに錆がボールペン(エナージェル)を手に取り、
テーブルに置かれた付箋へガガガッと何かを書き込んだ。
僕に読めるようにクルッと回された付箋に書いてあったのは、

「寿司」

「で?」ペリッ

「食わせろ」
「イヤだ」ペリッ
「回らないやつ」
「そこは回しとけ」ペリッ
「消費税分は払う」
「焼け石に水」ペリッ
「5%分払う」
「なんで減らしたんだよ!」ペリッ

僕だって普段はスマホやパソコンを使っているので、
こんなにたくさん文字を書くことはないが、
筆記具の使い心地の良さについつい筆が滑る。
使いやすい道具というのは人を幸せにするのかもしれない。
自然と錆の表情も和らいできた。

書き終わった付箋はそのまま床に捨ててしまって良いことになっている。
付箋は黄色茶色橙色紅色緑色黄緑色、
捨てられた付箋が床に溜まると、まるで落葉。
なお現在店内では僕たちだけしか筆談でやり取りをしておらず、
ものすごい勢いでモミジが増えている状況だ。

なんとか付箋が尽きる直前に“今日の昼ごはんおごり”というジャッジが出た。
二人でここに来るといつもついつい大量に付箋を消費してしまうので、
お詫びのしるしに普段からも通うようにはしているけれども心苦しい。
「1000円以内で」と書こうとして付箋を取り上げられ、
もう二度と遅刻しないことを心に誓ったところで、
琥珀がブレンドコーヒーを持ってきてくれた。
錆が残り少ない付箋に何かを書き込んで、琥珀に渡した。
受け取った付箋を見た後で僕にチラリと目をやると、途端に琥珀の顔が真っ赤になり、
慌てたように頭を下げて元の場所へパタパタと早足で戻っていった。一体なんだ?


△で手持ち無沙汰になったら、葉っぱを拾って言葉を見ればいい。
「何時からだっけ?
 クドアは8時」
「永永永永永永永永遠」
「クソビッチ! アバズレ!」(この葉っぱはグシャグシャになっていた)
「コーヒーめっちゃうまい
 ケーキ頼んでいい?」
「で、結局誰が悪いの
 犯人はヤス」
会話の断片のそのまた断片だけをハッキリと見る、というのはなかなかに新鮮だ。
それにも飽きたら、どうせ声も届かないのだから気を使って相手と喋らなくても、
本を読むなり土岐兄妹を眺めるなり、それぞれ好きなことをやっていれば、
ここでの時間はあっという間に過ぎる。
口を開けば無駄にボケツッコミしか出てこないような相手と来るにはちょうど良い。


ブレンドの3番は、濃いコーヒーが苦手だけど、アメリカンは物足りないという、
僕のようなワガママな客でも満足させてくれるちょうど良い飲みやすさで、
ついついいつも同じものばかり頼んでしまう。
冷めないうちに飲み終えて会計に立った。

いつもは琥珀が会計をしてくれるのだが、今日はレジで青磁が待っていた。
珍しい、何かあるのだろうかと、差し出された伝票を見ると、
先ほど錆が渡したであろう、紅色の付箋が貼ってあった。

「気をつけて 寝癖が 琥珀の おっぱい見てる」

椿・紙魚ときて琥珀。なんだか最近おっぱいの話題が多すぎる気がする。
違います、僕はおっぱいで女の子をどうこう言う下賎ではなく、紳士なのです。
と兄君に言い訳したかったが、近くに書く物が置いてなかったのでなすすべなく。
カウンターの向こうから氷点下の視線を感じつつ、震える手で代金をレジトレイの上に置いた。



WUJA BIN BIN / SAFE DRIVING



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