20140704 Fri
島田潤一郎『あしたから出版社』を読みました


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手元にあった夏葉社関連の本をズラーッと。
左から、
関口良雄『昔日の客』(夏葉社)
バーナード・マラマッド『レンブラントの帽子』(夏葉社)
島田潤一郎『あしたから出版社』(晶文社)
得地直美・本屋図鑑編集部『本屋図鑑』(夏葉社)
又吉直樹『第2図書係補佐』(幻冬舎)
『本の雑誌』2011年4月号 特集=一人出版社の時代が来たぞ!

というわけで、島田潤一郎『あしたから出版社』を読みました。

晶文社の「就職しないで生きるには21」というシリーズの最新刊。
1980年代に同社から「就職しないで生きるには」というシリーズが刊行されており、
(そのなかの1冊、早川義夫『ぼくは本屋のおやじさん』はとてもよい本です。最近ちくま文庫になりました)
その21世紀版がいま刊行されているシリーズです。
僕は他には森岡督行『荒野の古本屋』を拝読しました。


島田潤一郎さんは、夏葉社という出版社を、なんと一人でやっている方です。
本好きの人なら知ってる方も多いのではないでしょうか。
1作目の『レンブラントの帽子』から装画装丁がなんとあの和田誠さんで、
これは絶対に編集者として名高い人が独立して立ち上げた出版社なんだろうなぁ、
と思ったものですが、実際の島田さんは全く編集の経験が無かったらしく、
(出版社の営業としては優秀だったことが『本の雑誌』を読むと分かる)
経験がどうのこうのっていうよりは、
一人の愚直な情熱を周りも放っておかなかった、って感じだったんでしょう。

僕が夏葉社さんのことを知ったのはTwitterがキッカケでした。
たしか『レンブラントの帽子』と『昔日の客』の間くらいの時期だったと思います。
Twitterを始めたばかりで、とにかく本関係のアカウントをフォローしてたら、
「すごく良い出版社が出来た!」っていう感じのツイートが回ってきて、
検索してみると話題はほぼほぼ絶賛。
2010年っていうと僕はカレー屋で働いてたころでしょうか。
今のバイト先に買いに行ったのを覚えています。
チャリで行ける範囲で『レンブラントの帽子』を置いてそうな店、と考えて行きました。
『レンブラントの帽子』と『昔日の客』を購入し心はホクホクと財布はスカスカと帰宅。
今よりまだ海外文学にも本についても詳しくなかったので、
あまりピンとは来なかったのですが、良い本だと思ったのを覚えています。

『本の雑誌』2011年4月号では巻頭特集で、
島田さんと、一人出版社の先輩である図書出版クレインの文弘樹さんが対談されています。
その対談の中で島田さんが、
“ちなみに三作目は百年前のアメリカのコミックの復刊を予定しています”
と話されています。没企画かな? けど読んでみたい!
結局、夏葉社の三作目は(『関口良雄さんを憶う』の復刻を除くと)
上林暁『星を撒いた街』となりました。
そしてここで、ドラマかと思うような事件が起こります。
僕の大好きなエピソードです。

まず、ピースの又吉さんが『昔日の客』をラジオなどで絶賛。
それを聞いて感動した島田さんは、営業に向かった下北沢の古書ビビビにて、
何となくの雑談を始めます。
「又吉さんはこちらによく来たりしますか?」
「来ないですねぇ。 でも来るかもしれませんね、又吉さん本当に本が好きだから」
「じゃあ、もしいらっしゃったら、この新刊を、ぼくからということで、プレゼントしてもらえませんか?」
「じゃあ、来たら渡しておきます」
と冗談のようにして、『星を撒いた街』をビビビに置かせてもらうことに。

そしてしばらくのあと、なんと本当に又吉さんが、ビビビにやってきたのです。
しかも、カウンターに『星を撒いた街』を持って。
もちろんビビビの店長さんは、夏葉社さんの言葉を伝えて、又吉さんに本を進呈します。

……奇跡か!

(くわしくはこちら→ピース又吉の邂逅の書(てれびのスキマ))

本を心から愛する人々は本からも愛されて、こんな素敵な奇跡が起こるんだなぁと、
僕も心から本を愛するように頑張ってるつもりですが、ページで指を切っているばかりです。


さて、いい加減、読んだ本の感想を書きましょう。
本の中にも書かれているんですが、島田さんは実は元小説家で、
とても読みやすい文章で全編つづられています。
構成が前半と後半に分かれてて、
前半は夏葉社を作るきっかけになった事件から、
出版社という仕事を選ぶきっかけになった『さよならのあとで』が刊行されるまでが書かれています。
これは小説か!?と思うほどメリハリが効いてて、読んでてすごく面白いです。
前半で一番印象に残っている文章は、

ぼくは叔父と叔母のためになにかをしよう。(略)
自分の人生に一度見切りをつけて、ふたりのために、生き直す気持ちで、全力で何かをやってみよう。
それは、ひとつの転機だった。
三一歳までのぼくは、自分のためだけに生きてきた。(略)
こたえなど分からなかったが、とりあえず、もう十分だ、と思った。ぼくは、十分自分のために尽くした、と思った。

他の部分もそうだけど、島田さんの誠実な人柄が伝わってくる文章だ。
ちょっと変で突飛なところもあるけど、優しくて、生きづらいほどに真面目な人なんだろうなぁ、と感じた。
真面目でなければ、出版社を立ち上げるにあたって、親から200万の借金を2度したことなんて書かないだろう。
ものすごくフェアか、悪く言えばうまく立ち回れない側の人なんだろうなぁ、と思う。
そしてとにかく、思ったことはまず行動してしまう、という動く人でもある。
無名の出版社の1冊目の営業に、ためらうことなく突っ込んでいく様子、
もちろん断られまくってヘコんだりはしてるんですけど、
それでもなお突き動かされるように、島田さんの足は止まらない。
最後には運命的な出会いでもある京都の善行堂までたどり着くことになる。
生き方を選んだ覚悟を見るようだった。



何よりも良いのは、
名前が挙がっているのは書籍界隈では有名な人たちばかりだけれど、
その向こうに、確実に一般の読者たちがいて、夏葉社の本を手に取っているというのが、分かる。
島田さんがこんなに想いを込めて作った本を、受け取っている人たちがいるのだ。
単純で、当たり前のことだけど、素晴らしいことだと思う。僕もそのうちの一人ですアピール。
たまたまなんだけど、1章のラストにある『さよならのあとで』の展示に僕も行っており、
自分の体験もシンクロするようで、とても面白かった。


2章は飛び飛びのエッセイだ。
前野健太さんが閉店後にライブをやったことは覚えています。
僕は遅番+残業で行けませんでした……。行きたかった……。
島田さんの若き頃のエピソードも入っており、
どうも若い頃から突っ走るように行動する人だったようだ、というのが分かる。
まず、若き勢いで沖縄に転居したあとの恋愛エピソードが面白すぎる。

昨日ブログに書いたラブラブエイリアンのトークイベントでも話題になっていたんですが、
“女の子と付き合ったことのない男は、
 いざ女の子と話すとだんだんカッコつけたり高飛車になっていってしまい、
 それで本人は一生懸命やってるつもりなんだから、こっちはいたたまれないし、
 もちろん女の子はもう一度喋ってくれなくなる”

っていう、そのまんまの島田さんの態度ね。

ぼくはAさんをデートに誘ってアパートの近くの小高い丘の上で、自分の夢を語った。日本で五〇番目くらいの男になりたいんだ、と話した。
(中略)
僕はその数日後に、Aさんに、つきあってください、と告白した。けれど、Aさんは返事をする代わりに店を辞めてしまった。

僕は懲りずに、次に、Bさんのことを好きになった。
(略)
「Bさん、『グレート・ギャッツビー』って読んだことある? ギャッツビーはさ、大好きな人がいて、その人に振り向いてもらおうとして、一所懸命努力して、でも、死んじゃうんだよ。つまり、努力しても手に入らないものがこの世の中にはあって、それはぼくにとって、Bさん……」
(略)
「仕事中でしょ。黙って」

Aさんではなく、Bさんではなく、実は、ぼくは、Cさんのことが好きであった。嘘ではない。本当である。Cさんにはかっこいい彼氏がいたから、なにもできなかった。そういうことなのである。

バカだ! この人、バカだ!!
そしてこのあと島田さんは、Bさんにフラれたという理由で、アフリカに行くことになるのだが、
懲りずにBさんへ近況報告のメールを出すのもどうかしてるし、
メールの末尾にフッターのように毎回

ところで、Cさんとか、元気ですか?

が入るのが、もう最高だ。
男子の中の男子だこの人、と思いました。
(男の中の男、ではない)

恋愛エピソードで最高なのは、Kさんにフラれたときの話である。
これは是非読んでいただきたので、引用はしません。
ただ、絵に描いたようなテンパり方です。マンガか!

プレジデントオンラインでの、『本屋図鑑』についての連載も収録されている。
僕はこの連載の第2回(棚がスカスカになってしまった店のこと)と第5回(海文堂のこと)を読んで、
いよいよ夏葉社のファンになったのでした。
特に第2回の話はオチの切れ味がものすごく良いのです。

ファンを通り越して、僕はいま、
どこか遠出するたびに『本屋図鑑』を携え、
当地の本屋に寄って店のハンコを押して頂き、
当然本も買うので、荷物は行きの倍くらいに膨れ上がり、
ひいひい言いながら帰ってくるというのを、マイペースにやっています。
兵庫~大阪を回った時が本当に良い思い出になってて。
これがなかったら海文堂に行くこともなかっただろうし、
長谷川書店や隆祥館書店の方と話すこともなかったろうし、
っていうか、本を読んで引きこもってばかりだったろうし。
貴重な体験をさせてもらってる1冊です。
いつか、本庫屋書店(北海道利尻島)と、山田書店(沖縄県石垣島)へ行くのを夢見つつ、
これからも本にまつわるもろもろを愛して、ページで手を切っていこうと思います。


ちなみに「就職しないで生きるには21」シリーズの次作は、
東京桜新町でインドカレー屋「砂の岬」を営む鈴木克明さん・有紀さん、の本になるようです。
楽しみ!



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