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20140827Wed
 >夏休みだって、海を見に行くつもり

↓桐村さんの素敵なイラスト

(復習)
放課後、海を見に行くつもり
放課後、海を見に来たけれど



↓ソントンさんの蛇足なテキスト


少し前のことを思い出してみよう。
夏休み直前。場所はいつもの旧図書準備室。

放課後、部活の無い日でも、私は部室である旧図書準備室へ行くことにしている。
今年の読書感想文はなににしようか。せっかくだし、少し難しそうな本に挑戦してみよう。
などと考えながら、たてつけの悪いドアを開けると、
先輩が、扇風機の風を独り占めしていた。
スカートの前をめくり上げて。
見事なまでの痴女プレイだ。まあ、相手は扇風機なんだけど。
私が来たことに気付いても堂々と続行される痴女プレイ。

「おっすー。……ん、なにその冷たい目」
「今年の夏、一番バカな生き物を見た気がします」
「えっどこどこどこどこにいるの?」

残念ながら、バカには日本語の微妙なニュアンスが伝わらなかった。
先輩はそのまま自分以外の何者かを探そうとキョロキョロしながら、
スカートからシャツを引っ張り出し、裾を持ってパタパタと扇風機の風を入れはじめた。
横目でそれを盗み見ながら、来世は絶対に扇風機に生まれようと固く心に刻む私。

このまま見ていても目のやり場に困るだけなので、
棚から本を選ぼうと試みるが、視線は背表紙の上をつるつる滑っていく。
ストリップの続きが気になるという理由ももちろんあるが、
なにせ暑い。暑すぎてほとんど集中できない。
先輩が扇風機に色仕掛けを試みるのも分からないでもないのだ。
旧図書準備室は校舎のはずれにあり、校内でも一・二を争う古い部屋である。
クーラーなんていう文明の利器は当然ないし、おそらく壁や天井に断熱材すら入っていない。
この部屋で心地よく過ごせるのは年に2ヶ月ほどのことで、あとは暑いか寒いかのどちらか。
特に夏冬のピークには地獄と化す。いまがまさにその時期で。
室内に陽炎が立った、逃げ水が見えた、サボテンが爆発した、
コップ一杯の水が一瞬で蒸発した、窓のサッシで目玉焼きが焼けた、
などなど、伝説には事欠かない。
天井を赤ん坊が歩いていたという怪談も伝わっているが、
暑さのあまりの幻覚が原因だろうと、部員の意見は一致している。


ジャンワンワンワワワー ジャンワンワンワワワー

窓から見えるケヤキの大木。
木陰が涼しそうではあるが、あの下に行ったら10秒で逃げ出したくなるような音量で、
セミが大合唱している。高音がキツめのノイズギターのようだ。拷問に使えそう。
暑いしうるさいしで集中できず、読んでいた文庫本をついに机に放り出し、
窓際のソファで世界一だらしない格好を晒している先輩に声をかけた。

「先輩、いつまで扇風機独り占めしてるんですか、首振りにしてくださいよ」
「はいはいわかったよ、ポチッとな」

   カチ カチ カチ カチ   カチ カチ カチ カチ

「カチカチうるせえ! 首振りにしてもあんたが両サイドから押さえつけてたら意味ないんですよ!」
「え? じゃあ、こう?」
「持ち上げるな持ち上げるな! 台の部分がめっちゃスローテンポでツイストしてるみたいになってるじゃないですか!」
「なにじゃあどうすればいいっていうの!?」
「普通に置いて、こっちにも風を回してくれればいいんですよ」
「あんたさ、無理矢理首振らされてる扇風機の気持ち考えたことあんの!?」
「扇風機に気持ちなんてねえんだよ! いいから振ってください」
「快晴の日とかけまして」
「はい、快晴の日とかけて」
「性格の良いイケメンとときます」
「性格の良いイケメンととくそのこころは」
「どちらも、ふられることはない、でしょう」
「うまい! 山田くーん、シロさんに座布団1枚ってなんで謎掛けはじまったんですかー!!」

暑い中、いつもの調子でボケツッコミをするとバテるという単純な事実に、
3分後の我々は、バテてから気付いた。結局、二人ともバカだった。
沈黙を蝉の大合唱が埋めていく。
私はパイプ椅子で、先輩はソファで。
蝉の抜け殻を表現する競技があったならかなり良い線いくんじゃないかという魂の抜けっぷり。
三年寝太郎も土下座で謝る勢いでダラダラしていた先輩がめんどくさそうに口を開いた。

「そういえばさー、お盆ってひま?」
「何が、そういえばさー、なのか分かりませんがお盆ですか」
「そう、ひま?」

頭の中のスケジュール帳をパラパラとめくる。
私が所属する文芸部は毎年、秋の文化祭に部誌を出すことになっている。
そのため夏休み中には、文章を書くことはもちろん、それ以前の編集会議もしなければならない。
夏休み前半は週に一回で集まり、テーマやページ割り振りを決めて、
後半になるにつれて責任の擦り付けあいになり、最後には逃げだす者までいるので、
早く書き終えた者が泣きながらページの水増しを担当する、というところまでが毎年の恒例行事だ。悪しき。
私はどちらかというと水増し担当なので、時間が足りないことはあっても余ることはない。
そんな部活のほかにも、学校で行われる補講や塾の夏期講習、両親の田舎への帰省もあるだろうし。
学生という暇な身分であっても、夏はなんだかんだ色々あるのだ。
そういうわけで、いくら先輩の頼みといえども内容によっては断ろうと考えた。

「なんか用事ですか?」
「海の近くの親戚んちに何泊かするんだけどさ、よかったらミトもいっし」
「行きます」
「へ?」
「是が非でも行きます」
「いや、日程とか聞かなくてもいいの?」
「何言ってんですか空いてますよ。こじ空けますよ」
「あ、うん、だったらいいんだけど」

部誌? 補講? 夏期講習? 帰省?
ははは、笑わせてくれるわ。そんなもん枝葉末節些事些細である。
断言しよう。先輩との旅行のほかに大切なものなど何があろうかいやない。
頭の中のスケジュール帳は全力で閉じた。そして破り捨てた。
文芸部秘技 <見ないふり>!!

「で、日程なんだけどさ」
「いつでもどれだけでも大丈夫です」
「……あの、もしかしてミトって寂しい人なの?」
「哀れむような目で見ないでください」
「でもありがとう、助かるよ」
「助かる?」
「あいや、こっちの話、うん」
「ところで、海、って言いましたよね?」
「うん。水着も用意しとけよー」
「はいっっっしゃあああっ!」
「おぉ、なんだか元気良いなぁー」

ニシシと笑う先輩はいまだソファの上でダルダルしているが、
今すぐに机の上に立ち上がって『あの鐘を鳴らすのはあなた』を
物真似つきフルコーラスで歌いだしてしまいそうなほど私のテンションはぶち上がっていた。
しかしさすがに女子高生が素面でそんな真似をするわけにはいかないので、
心の中のお立ち台で大勢のジュリアナギャルを踊らせておくにとどめる。

夏。旅行。お泊まり。海。水着。

これはもう、フラグが立っちゃったと了解してしまってもいいのではないでしょうか。
私の中のジュリアナギャルたちは全員アルタスタジオで「いいともー!」と絶叫している。
しかしジュリアナギャルは大勢いるが、残念ながら私は1人だ。
お盆周りのスケジュールを空けるため、全精力を注いで課題と部誌制作に取り掛かろう。
暑いなんて言ってる場合じゃない。早速他の部員たちと日程を合わせて会議を行なおう。
いや、今すぐやろう。めんどくさいなんて言ってられない、私が仕切る。
ああっ、魔方陣が書けたら! 魔方陣を書いて今すぐここに部員たちを召還できたら!
いやいや、いっそ私だけでやってやろうか。A4で400ページ、私だけで埋めてやろうか。
そうかそうか、そうすれば良かったんだ。あとはあれだな。徹夜だな。
まだ若いし、カフェイン入れて、なんだったら今話題の危険ドラッ

「っていうかさ、扇風機、首振ったところでさあ」

上がりすぎたテンションが迷走を始めたところでやんわり止めてくれる先輩。さすがだ。
先輩の両手からようやく開放された扇風機は、ゆっくりと首を回しはじめ、
私の腿のはじっこあたりに当たるか当たらないかの微かな風を送るところで止まり、
そしてまたゆっくりと先輩の方へと戻って行った。

「と゛ーど゛ーか゛ーな゛ーい゛ーよ゛ー」

愛しの扇風機を再び両手で挟み込む先輩。ほんとうらやましいな扇風機お前。
しかし言われてみればそうだ。いつも先輩が独占するままになっていたので今の今まで気付かなかった。
180度近くも扇風機の首が回るわけない。
ジャンワンワンワワワー。
馬鹿にするような蝉の声が部屋中に響いた。ちょっと落ち着いた。
そうか、私を差し置いて先輩は扇風機とべったりか。
いいよ今は君に先輩を譲ってあげるよ。
そのかわり、私は旅行先で先輩とべったりするけどな!
とかなんとか邪なことを考えていると、

「ミトがこっちくればいいじゃん」
「はい?」
「ほれ」

たれぱんだ女子高生版の姿勢から座りなおして、ぽんぽんとソファの隣を叩く先輩。
なんだ、これは。罠か? 暑さのあまりの幻覚か?
そうだろう、夏のこの部屋は赤ん坊が天井を歩くくらいなんだから。
茶色の革張りソファは、今まで先輩が寝ていたからか、
ほんの少し、あたたかかった。

「いらっしゃーい」

顔は見えないけど、隣で先輩が楽しそうに笑っているのが分かった。
肩が触れている。ソファの座面がくぼみ落ちるから、離れることが出来ない。
気付けば、変な皺がつくくくらい、スカートを握り締めていた。
なんとなく、机の上に放り出したままになった文庫本を見ていた。
扇風機の羽は回っていたけど、風は全然感じなかった。
けれど、すごく暑いなんてこと、もうどうでも良かった。

それは今より少し前のこと。夏休み直前のことだった。


YASUKO - 9月の海はクラゲの海

(Original by ムーンライダーズ)



  

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このブログのタイトルは OFZK です
ソントン という人間が書いています
だいたい本を読んでいます





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