20130424 Wed
いざ行かん、自らを辱める旅へ


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恋人よ、僕は旅立つ。西へと向かうバスで。語呂が悪い。
ってなわけで、おそらく今頃、大阪へ走る夜行バスの車内にいると思われます。
ブログには予約投稿という便利な機能がありますので、それを使ってみました。
って言ってもホイホイと日に何個も日記が書けるわけも無く、
2012年末に途中まで書いて放り投げてたのを、書き足しました。
読み直してて、昔の方の文章が面白いという感想が頭をもたげましたが、
1本背負いでブン投げました。過去は振り返らない男なのです。

過去を振り返らないついでに、ぶっちゃけますと、
文中の“彼女さん”とは別れております。
そこらへんも味わいながら読んでいただけますと、
より一層ニヤニヤ出来るんじゃないかと思います。
お楽しみいただけましたなら、これ幸い。

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喫茶店にね、行ったんですよ。
何を間違ったか、画廊喫茶っていう、めっちゃオシャレな店に入ってしまったんです。
外観から薄々は感じたんですけど、俺みたいな薄汚い人間が入っちゃいけない場所でしたね。
オシャレっていうか、あれはもうフィクションですよ。SFですよ。実在しませんよ。
なんていうか、そう、耽美。耽美な人だけが入っていい場所でした。

「今朝は何をお召し上がりになられましたの? え、私ですか? 朝食はいつも霞です」
っていう人や、
「私、箸より重いものは持ったことがございませんわ。お恥ずかしい話ですが、生まれてこちら、腕を肩より上に挙げたこともございませんの。うふふふふ。ねえ、ばあや?」
って人だけが入っていい場所でした。
耽美について誤解があることは認めます。

僕みたいなのはね、マクドナんとかで色水みたいなコーヒーをすすってりゃ良かったんですよ。
でもさ、入っちまったものは仕方がないじゃないですか。
ガラッとドアを開けて「おぅっと、うっかり! 失礼千万こいちった!」なんて言って去る度胸、僕には皆無。
耽美な雰囲気に気押されながらも、席に座りましたよ。
入り口から一番近いテーブルまで、冷静に思い出せば5歩ほど。
……天竺までの道のりに思えましたねぇ。もしかしたら右手と右足が同時に出てたかもしれません。
もはや記憶が飛び飛びです。それくらい緊張してました。

席に着くと、マスターが水を持ってきてくれたんですけど、この人がまた気難しそうなんですよ。
黒のスリムスーツ。白シャツ。黒ネクタイ。黒革靴。長髪。不機嫌そうな表情。
あなたはマスターじゃない! 武器商人だ! 死の商人だ!! とガタガタ震えてると、
「……タバコは?」
一瞬、ガンジャなどを指す隠語かと身構えましたが、落ち着け俺、
いくらなんでも一見の客にハッパは薦めねえだろうよ。

マスターが、バシバシッと、メニューを投げるように置いていきました。
コーヒーの種類は結構あります。詳細は、当然忘れました。
普段はだいたいアメリカンで済ませる俺ですが、今は、確実に、値踏みされてます。
メニューから顔を上げずとも、カウンターから突き刺さるような視線を感じます。
自意識過剰と言われたって構いません。ええ認めます。
でも、もしも店の中で、自分だけが耽美じゃなかったら、あなたはどうしますか。
耽美側に寄せるしかないでしょうよ!
俺の出した結論(注文ともいう)はこうです。

「ブ、ブレンドをお願いします」

無難! 己のヘタレっぷりに絶望だ! 
無言でコーヒーを淹れはじめるマスター。お願いです。笑顔とは言いません。相槌を僕に下さい。
とりあえずこの(ある意味ではオイシイ)状況を誰かに伝えようと、LINEで彼女さんに連絡。
したたる手汗のおかげでフリック入力が超はかどります。
「マスター、ツン要素しかないでござるwww 攻略不可キャラwww 泣きたいwwwドゥフフwww」
見たまえ。己の周りの空気だけでもアキバ寄りに修正しようという悪足掻きを。

と、ここで、聖母が光臨。
2階の画廊から、次回展示予定らしきアーティストさんが降りていらっしゃって、
なんと、あの武器商……もとい、マスターと談笑を始めたではありませんか!
助かった。危うく、空気が二酸化炭素だけになるところでした。
っていうか、声は笑っていても、顔は不機嫌なままのマスター。あんたは逆竹中直人か。
しかし、おかげでなんとかコーヒーが出てくるまで間がもちそうです。
そこで聖母が一言。

「ちょっとタバコ買ってきますね」

ジーザスクライスト! 待っておくれよマリア!!
なんて僕の心の叫びが聞こえるはずもなく、マリアは無情にも外へ。
再び店内は僕と武器商人の2人だけに。
あまりの空気の重さに、心なしか効果音で秒針の音まで聞こえてくるようです。
と思ったら、柱時計が鳴りました。良かった、少しは冷静だ俺。

やがて、「はい、ブレンドです」 ガシャン。とマスター。
さてここで問題が浮上します。そうです“私、超が付くほどの猫舌なのよね問題”です。
普段でしたら、飲める温度に冷めるのを待つところですが、
コーヒーってのは基本的に、飲むのに一番ふさわしい温度で出てくる、と聞いたことがあります。
……いくしか、ありません。生唾をのみこみ、湯気立つブレンドを口に含みます。
主に苦味が出ています。けど飲みやすいです。それ以上なんてもちろん、分かりません。
舌の火傷はなんとか先のほうだけで済みました。戦いに多少の犠牲はつきものです。

さて、なんとかコーヒーを飲み始めたところで、当然、新たな問題が立ち上がります。
“急いで飲み終えるのもそれはそれで気が引けるわね問題”です。
ああ、ヘタレと言いたくば言え。否定はせぬ。
窓にはレースのカーテンがかかっていているし住宅街の1階ですので、
景色を見てもそう面白いものではありません。
手持ち無沙汰になった僕は、再び彼女さんにLINEを送ろうとiphoneを机に出した、瞬間でした。

死の商人がカウンターを出て、近づいてくるではありませんか。

やばい、もしかして携帯は禁止だったか?
そうだよな、これだけ耽美な雰囲気を出しているのだから、電話は黒電話、
いやさ、トトロに出てくるような、耳に当てる部分だけが取り外しできて、
通話相手の前に一旦交換手が出るタイプの、昔の電話しか許されないのかもしれない。
無理だよ! 交換手いないよ! 電電公社はNTTになったんですって!! 
やがてマスターがテーブルの前に着くと、不機嫌な表情のまま僕に向かって、袈裟斬りで、

「ショップカードと、2階画廊の次回の展覧会のご案内です」  バシバシッ

お願いします。少しは笑ってください。じゃないと、こっちの寿命が大変動です。
カウンターへと戻るマスター。状況は膠着。コーヒーの温度も膠着。
さて、どうやって時間を稼いだものか。
今日は結構歩く予定だったから荷物は少なめ。手慰みになるものも無い。
かといって下手に携帯をいじると、今度こそガチで袈裟斬りが来るかもという妄想に取り付かれ、
いやいや、落ち着け俺、そうだ、本、本だ、本しかない。
こんなどうしようもない俺を救ってくれたのは、いつだって本だったじゃないか。
そうと決まればと、カバンを漁る僕。その手が掴んだものは、……ババン!

 『現代詩文庫 北園克衛詩集』

な、なんとなく耽美っぽいの出てきたー!

ミラクル! 急いで机の上に広げて読み始めました。
北園克衛は大正から昭和にかけて活躍した前衛詩人。
僕と同じ三重県出身ということでずっと気になっていたのですが、
詩を今までほとんど読んだことがなかったので、なかなか手が出ないままでいた詩集、
ここに来て、まさかの大活躍。ありがとう北園さん。
本さえ手元にあれば、僕はもう大丈夫です。落ち着きを取り戻しました。
今まで全く聴こえていなかった店内BGMの室内楽っぽい曲も、耳に入ってきます。
おお、落ち着いてみると、なかなか読書に適した静けさ・明るさではないですか。
ということで、ページを捲る手が思いの他はかどります。

やがて聖母がタバコの買い出しから帰還。カウンター席でマスターとの談笑を再開。
2人の様子を伺うのも申し訳ないので、僕は本を読み続けます。
地元の常連らしきご年配の男性が来店。僕の前のテーブルへ。
気候やご自身の体調のことなどマスターと喋っていらっしゃいます。
「いつもので」と、コーヒーをご注文。か、かっこいい。
なるほど。耽美とか気にせず、自然体でいればいいんじゃないか。そりゃそうだよな。
2階の画廊を観に来ていた女性が降りてきて、僕の後ろのテーブルへ。
こちらは遠方からの常連さんらしく、マスターに手土産などを渡していました。
それらのやり取りを見ていて、つくづく思います。愛されているお店なんだなぁと。
なんせ、平日の夕方にテーブルが満席になるくらいですからね。 ……ん? 満席?

 ガラガラッ 「こんにちはー」

しまったー! 落ち着きすぎて、出損ねたー!!
店内ヒエラルキー的に、というか順当に考えて、
先にコーヒーが出ていた僕が席を立つのが当然の流れです。
まだ少し残っているコーヒーは流し込んでしまえば構いませんが、
なにせマスターは常連お二方のオーダーを作っている途中。
下手に俺が会計を申し出て、マスターをバタバタさせてしまい、
いつもと違う味のコーヒーが常連さんに出てしまったら、そんなの耽美ではありません。
ところでなぜ、俺は誰よりもこの店の耽美を死守しているのでしょうか。
その疑問はそっと胸にしまっておいてください。
しかしどうしたものか、思い切って相席を申し出ようか。
いや、今入ってきたお客さんは、店内を伺っている様子から察するに、俺と同じ一見客。
しかもなんだかニコニコと陽性の空気をまとっている。
ここで相席を申し出たら、逆に色々と話しかけられそうで、それはそれで面倒くさい。
俺は耽美じゃないけど、陰気なんだ! めんどくさくてごめんなさい!
あっ、そんなことを逡巡している間にご新規さんがニコニコしながら、マスターに、

「すみません、2階の画廊へはどう行けば良いですか?」

貴っ様ー! どうしてそれを早く言わんかー!!
喫茶店の利用ではなく、画廊だけを観に来た人だったようです。
コーヒーを入れながらマスターが答えて
「奥の階段から上がって頂けます」
ご新規さんニコニコしながら
「でも店の中を通っていってもいいんですか」
「奥の階段から、上がって頂けますから」

「いや、店の中を突っ切るのも申し訳ないですし」
「奥の階段から、上がって頂けます!」

「外から回れるならそっちを教えて頂いたほうが、」

あっ、やっぱりめんどくさい人だった、この人ー。
よかった。相席とか言い出して色々と恥ずかしいことにならなくてよかった。

その後、マスターのキレ気味の目にようやく気付いたのか、
大人しく店内を通って2階へ上がっていくご新規さん。
殺気を収めて、代わりに常連さんのコーヒーを出すマスター。
さて、場も落ち着いたところで、席を空けねば次こそ何が起こるやもしれんと、
先ほど袈裟斬りで置かれた伝票を手に取り、恐る恐るカウンターへ近づきました。
一見すると、カウンターに座るマリアと談笑しているように見えるマスターですが、
目が笑っていません。
ええい、ままよ!と、清水の舞台から飛び降りる覚悟で、お会計を申し出ます。
店内に入ってから一挙一動に非常に疲労を感じるのですが、気のせいでしょうか。
「600円です」
ぶっきらぼうに値段だけを言い放つマスター。
慌てて財布を取り出し、中を確認します。

[1万円] × 1

諭吉様、貴方はなぜそんなに残酷なのですか。
普段はどれほど恋い慕っても、私のそばには居てくれやしないのに。
どうして、こんなときだけ、私に優しい顔をするのです。
そんな、困ります。私、私、

600円のコーヒーを1万円で払ったら、多分マスターに殺されます。

膝がカタカタと鳴ります。
コーヒーを飲んだばかりだというのに、喉が渇きます。
生唾を飲み込みました。
焦点が合わない目と、細かく震える指で、
なんとか1万円を引っ張り出し、
「あのっ、あっ、すっ、すみません、大きいのしか、なくって……」

僕の上ずった声を、柱時計のボーンボーンという音がかき消しました。
数瞬ののち、

「あん? 大きいのしか、無い、だと?
 ……あんた、分かってねぇなぁ。全然分かってねえよ。
 カチッ (←撃鉄を起こす音)
 じゃあ、このリボルバーで、あんたごと細かくしてやろうかねぇ!」

というのは完全に僕の妄想で、普通にお釣りをもらえました。
そりゃそうです。ここはヨハネスブルグではなく、日本でした。

「ごちそうさまでしたー」
逃げるようにして店を出ようとしていると、なんだか背中に視線を感じます。
おや、マスターがこちらを見ている?
すると、マスター、カウンターに両手をついて、

「……良かったら、2階の画廊、見てってよ」

デレたーーー! クララがデレたーーーー!!
伝説の木の下で伊集院が待っていたとき並みの衝撃。
「一本あれば十分でしょ!」とハルヒが傘を差し出してきたとき並みの衝撃。
今までひとかけらも見せなかった笑顔でマスターが話しかけてくれました。
喜ぶべきなんでしょう。店内の誰よりも耽美を守りきった僕へのプレゼントなんでしょう。
けど、なぜなんだろう、

地獄が長引いただけのような気がしてしまうのは、一体なぜなんだろう。


その後、お言葉に甘えて、2階の画廊へ上がらせてもらいました。
階段周りがめちゃめちゃ雰囲気良かったです。本がめっちゃ置いてあった。

画廊は6畳くらいの広さで、2階の小部屋という感じ。
展示中の作家さんが1人在廊してらして、先客が3人(うち1人は、さっきの陽性の人)
バッと眺めてしまえば、一瞬で見終わってしまうような広さ・展示数でしたが、
この磁場ではそんなことが出来ようはずも無く、
訳知り顔で全ての作品を「ほほう」「ふーむ」「これはこれは」と見て回りました。
見て回るだけでは足りないかもしれないと、2周しました。
そこまでしてようやく僕より前に来てた3人がハケてくれたので、
作家さんに会釈をして、僕も画廊をあとにすることに。

喫茶店とは別に、直で外に出られる出口があって良かったと、心の底から思いました。


耽美というものがいかに自分に合わないかが分かったので、僕はもう行くこともないと思いますが、
そっち系のが好きな人や、マスターに目で殺されたい人には、断然オススメ出来るお店でございます。
非日常を味わいたいとお嘆きの貴方、京王初台駅の近くに非日常はございます。
画廊珈琲Zaroff、一度行ってみてはいかがでしょうか。



コメント

by えこたん (URL)
ニヤニヤ☆

別れるとか別れないとか何でしたっけ?←
結婚11年の私には遠い過去ですー。

ザロフさん、住所に「五差路」と。なんだか素敵。
刺激が欲しくなったら訪れたいですね。
2013.04.25 10:23 (編集)

by ソントン (URL)
そうそう、五差路にありました。
夕暮れ時に見ると、もう雰囲気満点ですよ!
なんか、ホラー物にでも出てきそうな感じです(笑)。

11年! 羨ましいッスわー。
僕は基本的に1人でいるのが好きなんですが、
いつか2人も良いもんだなぁと思、、、えるもんなんでしょうかね(笑)。想像だに出来ません。
まぁ、今は久方ぶりの独り身を楽しみたいと思いますー。
2013.04.26 22:38 (編集)

by えこたん (URL)
うちはお互い干渉されるのが嫌なので、サラッとした感じです(笑)
日曜日に夫が一人で出かけようが何も言いません。
そう言えば結婚したての頃はさすがに甲斐甲斐しく世話したくなるじゃないですか!
そしたら夫が「そういうのされると後々慣れて全部任せるようになっちゃうから、極力自分でやるわー」とか言われましたね。
こう書くと優しいタイプと思いきやつかみどころのない人です。
AB型だから?(偏見)
それにソントンさんと同じ塾に通っていたっぽいですし(笑)

2013.04.28 06:56 (編集)

by ソントン (URL)
AB型に対する偏見が(笑)。
おおう!塾の先輩なのですかー。
もしかしたら高校も同じかもしれませんね。
サラッとした関係、憧れます!
2013.04.30 03:18 (編集)


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