20140920 Sat
マツという友達


マツ、という友達がいる。
もう10年来の付き合いになるだろうか。
僕が上京して最初に仲良くなった友人である。

マツとは新宿で出会った。
それまで僕は、三重にいたころからつながりのあった、Y、とよくつるんでいた。
Yとマツは似たところが多くある。
だからこそ僕はすぐにマツと仲良くなれたのだろうと思う。
しかし、Yは遊んだ後に会計を始めるのに対して、
マツはといえば、今日はこのくらいで遊ぼうぜ、と事前に使う金額を決めるような、
そういう小さな、しかし重要な部分での違いがあった。

あと僕は料理が一切できないので、人の家に遊びに行くと、
出てくる料理でもてなしてもらうことしかできないのだけれど、
Yの家に比べて、マツ家はいつも一品多く品物を出してくれるサービス精神があり、
なんだか田舎に帰ったような安心感を得ることが出来た。


とある事件があった。食品に関わる事件だ。
当時は大変騒がれたが、ほとんどの人にとって、
いまや記憶の奥底に埋もれてしまっているような事件だ。
わざわざ詳細を記して、懐古を煽るような真似はしない。

僕もマツもYも、当時飲食業に携わっていて。
僕は主に酒を出す店だったのでほぼ影響はなかったが、
マツとYの店には甚大な影響があった。
虫の息のようになった二人を元気づけるため、
僕は二人のところに顔を出すようにした。
二人は今までとは違うメインメニューを作るなどして、
どうにかこうにかやっていた。

Yはその頃から、すこしずつ態度が変わっていってしまった。
いや、その変化はごく僅かなものだったのかもしれない。
しかし、初めは角度にして1度だけのずれだったとしても、
それが何日も、何週間も、何年も続けば、
やがて大きなズレへとなってしまう。
僕とYはまさにそのようにして、徐々にもう離れていき、
今では全く会うこともなくなってしまった。

Yとは逆に、マツとは親しく付き合うようになった。
新メニューが僕の口に合ったというのが一番大きかったし、
卑しいことを言うようだが、やはりマツ家に行ったときに出てくるプラス1品は効いた。
友情なんて所詮人付き合い、そういう部分からも影響を受けるのである。

僕は給料日にはマツとちょっと良いものを食べにいったり、
休みの日にもわざわざ会いに行って、見た映画や舞台の感想を話したりするほど、
マツと本当に仲良くなっていった。
お互いにもう働いていたので、親友、とまではいかないかもしれない。
しかし、ほかの友達よりは、よっぽど濃い付き合いをしていた。

だけど、そう思っていたのは、僕のほうだけ、だったのかもしれない。

いや、かもしれない、ではなく、
実際、僕の方だけ、だったのだ。


事件から数年後、ずっと憧れだった舞台に出るようになった僕。
そのせいで仕事など環境が変わったこともあったけど、
マツとは変わらず仲良くやっていた、つもりだった。

ある日、舞台で共演した女優さんから、
マツの店が、かつての事件のときに作った新メニューを止めた、
ということを教えられたのだ。
寝耳に水、だった。
いや、僕に相談したところで何の役にも立てないのは分かっている。
しかし僕は、その新メニューが大好きだということを、
何度も何度も様々なかたちで表してきたつもりだった。
そんな僕に一言もなく新メニューを取り下げるだなんて。

尊敬する女優さんの言うことなれど、
聞いただけでは信じられなかった僕は、
いそいで実際にマツの店まで足を運び、
事実を、認めたくない事実を、この目にした。

ショックのあまり、ふらふらと店の中に入ると、
いつもと変わらないマツの姿が。
いや、変わらない、なんて嘘だ。僕の都合の良い解釈だ。
マツはこれまでよりも元気だった。
たしかに何かが変わったような、吹っ切れたような、
そんな表情をしていた。

かつての事件はとっくにほとぼりが冷めていて、
しばらく前から再登場していた昔からのメニューが、
またメインとして台頭していた。
僕はろくに味も感じないままそのメニューを食べ店を出て、
女優さんに事実を確認した旨報告した。

何かが大きく変わり始めていた。
まだはっきりとは分からなかっただけだ。

変化とは、変わり始めの頃に気づけばなんとか出来るものなのだろうか。
若輩者ながら、僕はこれまで何度も、何かが変わっていくのを見てきた。

だからこそ言えるのだけれど、
変化のはじまりで気づくことなんて出来ない。
気付けるのは、変化が終わって、もう取り返しのつかなくなったあと、でしかないのだ。
しかもそれは往々にして、別のところから知らされる。
僕の場合、最近、マツとの共通の友人によって教えられたのだ。
マツが、変わってしまった、と。

急いでマツの店に駆けつけた。
マツの店に到着し、顔を上げた瞬間、速まっていた鼓動が、一瞬、止まったような気がした。

マツの店のメインメニューが、大幅に値上がりしていたのだ。

いや、僕もあれから無駄に年を重ねたわけではない。
たしかに事情は分かる。
消費税も8%に上がり、僕にはまったく実感のない景気の上昇というやつで材料費も上がる一方だと聞く。
こんなに一気に値上げして大丈夫か、と口に出かかったが、
余計なお世話というものだろう。
僕とは違ってマツは慎重な性格だ。無謀なことはしない。
何か勝機があっての今回の値上げなのだろう。

もうおそらく、これまでのように会うことはないだろうと、
なるべく卑屈にならないように気をつけながら笑顔を浮かべ、
店の中でマツに、これからどうするつもりか、を聞いてみた。
マツは、今までの自分じゃなくて、これからはプレミアムになっていきたい、
と、照れたように笑った。
大人になったからこそ浮かべることの出来る、少年のような笑顔だった。
僕には何も言えなかった。言う資格がなかった。
友達、というのは双方の思いによって成り立つものだ。
僕がどれだけ思ったところで、それは一方的な勘違いでしかない。迷惑でしかない。

僕とマツは、いつの間にか、友達ではなくなっていたのだ。


マツよ。
僕たちが出会って10年が経った。
僕は相変わらずバカなウスノロのビンボーだというのに。
お前は立派になってしまったな。
どうして僕を置いていってしまうんだい。
なぁ、まつや。

なぁ、松屋。



コメント

by ユート (URL)
Sは?
Sは友達じゃないんですか?
2014.09.21 17:14 (編集)

by ソントン (URL)
いい質問だ!
そもそもSは、すごくメニューが多くて迷ってしまうので、昔からあまり仲良くないんだ……。

元々、三重にいた頃、お父さんがたまに連れて行ってくれたのがYで、
その頃のYが出してくれた牛丼は本当に美味しかった。
三重を離れて熊本に引越したときも、しょっちゅうYに通ってた。

けど、僕が20歳の頃、狂牛病の騒ぎがあって、牛丼が一斉にメニューから無くなってしまった。
どの店も代わりに牛の代わりに豚を使った、豚丼というのを出し始めた。
Yの美味しかった牛丼の味を知るものとしては、
正直、Yの豚丼は、あまり美味しいとは思えなかった。

Yの豚丼にも飽きてきたときに出会ったのが、マツだった。
マツの豚めしは、Yの牛丼にも負けないくらい美味しい、と僕は思った。

結局、Yに飽きてからすぐにマツに出会ってしまったので、
Sにはあまり関わらないまま、今まで来てしまった、というわけ。
なのであまり仲良くならなかったんだよSとは。
もしもマツより先にSと出会ってたら、どうなっていたかは分からないな。
2014.09.22 00:37 (編集)


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