20150225 Wed
魚とか待つ


 すこし雲がかかっているが、暖かく、過ごしやすい日だ。ベランダの手すり越し、すぐ足元の海めがけて釣竿を振る。ひゅいっ。風もほとんどなく、釣り針は狙った場所へと飛んで行った。ぽちゃんっ。水面に小さな波紋が出来た。
 部屋の中からシバタが出てきた。手には缶ビールと灰皿、口にはタバコを1本。よぅーす。うぃ。言葉になっていない挨拶を僕らは交わす。名前の知らない大きな鳥が2羽、太い鳴き声をあげながら飛んでいった。そういう感じで。
 シバタは手すりに灰皿を置く。スエットのズボンから100円ライターを取り出し、タバコに火を点けた。くわえタバコのまま缶ビールを開ける。プシッ。タバコを右手の人差し指と中指ではさみ持ち、じゅるじゅるという音を立ててシバタはビールを一息でずいぶんと飲み込む。特に喉が渇いているわけではないけど、見ているだけでビールが飲みたくなるような飲み方で、3分の1かそこらを呑み終わったあたりでシバタは缶から口を外し、わざとらしくない程度の吐息をついた。くはぁー。

「なにか釣れるの?」
「どうだろね」

 手すりによっかかり、揃って水の中を覗き込む。僕が住んでいるマンションの隣の隣にはファミリーマートがあり、ボンベを担がなくとも気合を入れればまあビール1缶くらいなら買ってこれるかなという距離。海底に沈んだいまでも絶賛営業中で、人が入っていくのが見える。道を歩いている人たちは結構いて、平日だし仕事中の人たちなんだろう。僕は平日が休みで、シバタは在宅仕事をしている。
 シバタが吐くタバコの煙は風に流れることもなく、しばらく漂っては消えていく。中型のモーターボートが結構なスピードで道を走っていった。ボートに乗ったスーツの一群が羨ましそうにこちらを見ている。僕とシバタは割りと大きめに手を振ってそれに応えた。

「なあ、シバタ」
「んー?」
「今日さ、どっか行く?」
「いや、いいよ」

 竿を持っているのもそろそろだるくなってきた。いつ止めたものかと考え始めている。手すりにひじを置いてタバコを吸いながら、シバタは建物の隙間の向こうをぼんやりと眺めている。浮きはまだ沈まない。魚なんてきっといない。



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山瀬まみ「ゴォ!」


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