20150425 Sat
映画『セッション』を観ました


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 いま話題の映画、『セッション』を観てきました。(http://session.gaga.ne.jp/
 “話題の映画”っていう決まり文句を初めて書いた気がするのは、普段、マイナーな映画しか観に行っていないからでしょうか。
 ド一人のくせに、ドキュメンタリ観に行ってなくてすみません。また暇が出来たら行きますんで、期待しないで待っててください。

 新宿コマ劇場跡に新しく出来た、新宿TOHOシネマズで観てきました。動かないゴジラの下で。平日夜の回、客席は6~7割の入りといったところ。普段、マイナーな映画を観に行くと、予告編が1~2本、ヘタするとゼロってこともあるのですが、久々にシネコン行くと、やっぱ予告やら広告やらが多い気がしますね。それだけでまず疲れるっていう。予告を観た中では、『マッドマックス 怒りのデスロード』が一番面白そうだって思った。オリジナルの『マッドマックス』は観たことないんですけど、ああいう世紀末救世主伝説的砂漠感、嫌いじゃありません。あと、映画泥棒の映像って、新しくなるたびにダンスが下手になってる気がする。

 観に行く前から、僕の敬愛するジャズミュージシャン・菊地成孔さんと、映画評論家・町山智弘さんの間で、『セッション』にまつわる論争が起こっていると聞いて、もうそれだけで楽しみだ、と。さらにムービーウォッチメンで宇多丸師匠の評論も聞ける、と。ならば観に行って、自分の感想を書いて、それから論争を読んで、僕の感想の浅さに絶望せねば、と、思っておりました。

 観終わってすぐに思った感想は、純文学みたいな映画だな、というものでした。
 描き得ないものは描き得ないものとして、周りを描写することで、その描き得ないものを浮き上がらせようとしている映画、という印象。
 “話題の”(←また使ってみた)ラストシーンは特になんだけど、他のシーンにしたって、ちゃんとしたオチや解答の描写があるわけではないので、あれ以降二人はどうなったのか、とか、結局それぞれはどんなことを思っていたのか、とか、観た人の想像で補わなければならないので、正解を求めて観た人同士で語り合いたくなる映画、なのではないでしょうか。っていうか、最近こういう映画多いな……。

 公式サイトに載ってるピエール中野(凛として時雨のドラマー)の感想が、一番上手く突いている気がしました。引用。

観終わったらすぐに感想と突っ込みを誰かと話したくなる、めちゃめちゃ面白い優れた映画。
スネアのヘッドを素手の拳で破る主人公に「違う道に進んだ方が良いのでは?」と本気で思った!絶対に見るべき!

 そうです。とある場面で主人公は、スネアのヘッド(太鼓の打面、皮の部分)を、素手で殴って破るんですね。ヘッドは消耗品ですし、破れる現場はもちろん見たことあるので、殴って敗れることがありえないとまでは言いませんが、まあ普通はあんなこと無いでしょう。「えーっ!?」って、ダウンタウン松本のノリで声出して思わず笑っちゃいそうになりました。
 そういう盛った描写がチョイチョイ出てくるので、はじめからジャズ映画だと思って観に行くと、盛ってある部分で冷めてしまうかもしれません。マジの音楽好き、特にマジのジャズ好きの方のなかには、バカにされたように感じてトサカに来る方もいらっしゃるでしょう。
 落ち着いてください。この映画は、ジャズ映画(って言い方で伝わる?)では無いのですね。
 例えば、『少林サッカー』を観て、あれが本当のサッカーだって思う人は、まあ10000人に1人もいないでしょうし(いたらいたで面白いけど)、「こんなのサッカーじゃねえ!」って怒る人もまあいないでしょう。
 この映画も同じです。あれはジャズではありません。ジャズを題材に取った、素直すぎるおバカな弟子とブラックな師匠のバトル映画、といった方がまだ合ってると思います。
 悪いとすれば、ああいった盛りが、マジで音楽をやる上であるんじゃないかって思わせる、雰囲気?描写?宣伝方法?、そこに原因があると思います。
 あと、プロとして音楽で食べていけるようになるのに、どういった練習が必要か、とか、よく知られていないのが悪いんじゃないかとも感じました。もう皆さんは、スパルタ根性論の練習で野球部が強くなる、なんて思ってないでしょ。精神論も大事かもしれないけど、それだけじゃダメって知ってるでしょ。音楽もそれと一緒で。メカニカルな練習や、体を作らなきゃいけない技巧は、回数こなさなきゃいけないけど、一個一個考えて練習していった方が早いですし、バンドも、劇中で描かれるような恐縮しきった雰囲気よりは、ある程度楽しい方がやりやすい気がするし。指導者はたまにはキレるかもしれないけど(夏のコンクールに向けた練習で、指導者をキレさせなかった吹奏楽部は無いと個人的に思う)、あくまでたまにだろうし。

 この映画の特徴は、説明描写がすごく少ないところ、だと思います。ヒントを求めてついつい見入ってしまう。
 内田樹さんがよくおっしゃっている「先生は、なぜ偉いか分からないからこそ、偉い」という論が、まさにこの映画に当てはまっていて、鬼教師・フレッチャーが何故凄いのか、はじめ分かりやすい解説が無いんですね。突然バーンッって出てきて、「新しいバンドメンバーを探している」みたいに言って、バーンッって去っていくだけ。なんとなく周りが気まずい顔になってるし、主人公もバンドに呼ばれただけで喜んでるし、なんかよくわからんけど、あの先生は凄いぞ、って感じになる。
 で、映画の中盤辺りでフレッチャーが、「俺の昔の教え子が自動車事故で~」みたいに語り始める部分があるのですが、そこから俗物感がうっすら出てくる。少なくとも観客には分かるように演出されてる。
 けど、先生に反発しながらもゾッコンの主人公には、その俗物感も見破れず、むしろその過去の教え子の壁を越えなければいけないものとして内心で設定してしまい、引き寄せの法則よろしく自分も同じような目に合いながらも、それを一旦は気力で超えてしまう。けど、先生って言うのは何故偉いか分からない=原因が分からないから超えることが出来ない、ので、その場面では壁に阻まれてしまいます。

 内田論に沿っていうと、劇中でフレッチャーが演奏をするシーンがあるんですが、たぶん、生徒からするとその瞬間、先生は人間に変わってしまったのですね。だって、少しでもジャズを聴いていれば分かると思うんですが、そのシーンでのフレッチャーの演奏は、そこまで凄いものではない、からです。監督がどういう意図であのシーンを挿入したのかは分からないんですが、フレッチャーの演奏を聴いてしまうと、「ああ、あんなに偉ぶっていた鬼教師も、いちプレイヤーとしては凡百のレベルでしかないのだな(=先生ではなく、ただの人間)」みたいに感じてしまうと思うのです。
 島田裕巳さんは『映画は父を殺すためにある』で、イニシエーションとしての父殺しという観点から映画評を書かれてましたけど、『セッション』での生徒vs.鬼教師ってのは分かりやすくその構図になってて、その二者間の距離が巧みに演出されているのが、ラストに上手く活きてましたね。
 つまりラストで再び主人公の前に立ちはだかるのは、先生という立場ではなく、プレイヤーとして一旦は主人公の前に人間として現れたフレッチャーなので、その時点ではもう先生(=超えられない神)ではなく、人間(=超えるべき父)なので、ようやく対峙できる、という変化。上手い演出ですね。
 その父殺しを終えると一体どうなるかが、もしくは結局どうなったのかが、チラとも描写されていなかった、ので皆ヤキモキしてるんですね。俺だってヤキモキしてますよ。けどこればっかりは正解がないのでどうしようもないですよね。

 ただこの見方だと弱点があるのは分かってて、実は主人公は、フレッチャーの駒としては成長しているかもしれないけど、音楽的には成長してないのですね。だってさ、劇中で必死に練習してる曲、たったの2曲だよ? いやいや、灘校の『銀の匙』じゃないんだからさ。枠内では上手くなるかもしれないけど、それ以上には広がらない成長。だから、その父殺しでさえ無為かもしれなくて、再び枠内に囚われてしまうループ構造になってしまうかもしれない。下手すると共依存の関係のままになってしまうかもしれない。そこでさらにヤキモキするわけなんだけど。


 よし。まとまらないままだけど、俺の感想は書きました。
 本当はもっと、なぜ実際の父ではなくフレッチャーを代替の父として設定したのかとか、ガールフレンドとの付き合い方が上手くいかない理由(あの、俺のせいなんだけどっていう口ぶりを装って、言ってることは要するに「君と会うのがめんどくさくなった」っていう、自分が傷つかないダメな振り方、身に覚えのあるのは俺だけじゃないはず、そうだろ!ボンクラ男子ども!!)とか、そもそもガールフレンドと会うシーンが極端に少ない理由とか、母親不在という環境が与えた影響の考察とか、やたら画面が男臭い理由とか、考えるべきなのは分かってますけど!

 けど! なにせとりあえず、菊地さんと町山さんの評論を読みたいので、僕の感想はこんなところで勘弁してください。




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