「舟越桂 私の中のスフィンクス」@三重県立美術館

先日、「舟越桂 私の中のスフィンクスという展覧会へ行ってきた。
舟越さんの作品は、須賀敦子さんや小川洋子さんの本の装丁を飾っている。
以前から、一度は実物を見てみたいと思っていた。
装丁を見て、気になった作家は多く、
土屋仁応(小川洋子、今村夏子)や三谷龍二(伊坂幸太郎)など。
北園克衛も、詩より先に、堀江敏幸の装丁でオブジェ作品を知っていた。

日曜の昼過ぎだったが人もそこまで多くなく、
会場も広かったので、ゆっくりと見られた。
わりと子供連れの家族も多くて、良いなと思った。

舟越さんの作品の特徴は、まず、大理石を用いた目の表現にある。
説明文にも書いてあったのだけれど、右目と左目の向きを外に離すことによって、
鑑賞者とまったく目が合わないようになっているのだ。
その静かな表情とも相まって、作品がまるで、永遠を見ているかのような、おごそかで神聖な雰囲気をまとっている。
作品によっては、わずかに伏し目になったり、虚空を見上げるようになることで、驚くほど繊細な表情があらわれる。
もうひとつの特徴は、誇張された体のつくり、特に、首の長さだ。
遠目からでも、この世ならざるものであることがはっきりと見て取れる。
そういえば、いがらしみきおのマンガ『sink』に首の長い人が出てきたな、と思い出す。

僕が知っていた、装丁に用いられている作品は、わりと初期のものであり、
2005年以降のスフィンクスシリーズは初めて見るものだった。
「戦争を見るスフィンクス」の厳しい表情は、なかでもかなり珍しいもので、鮮烈だった。
「バッタを食べる森のスフィンクス」なんかは、知り合いの生物系大学生を思い出したりした。
いまごろ彼も森でバッタを食べているのだろうか。
過渡期の作品である「夜は夜に」が、もっとも印象に残ったかもしれない。
悪魔はきっとあんな顔をしていると思う。
特に良いなと思ったのは、「冬の本」という優しい印象の作品だ。
モデルがいるらしく、その人物の人柄が、見事に彫り込まれていたように思う。



じっくりと見て回ったので、結構足もだるくなっていたのだけれど、
チケットの半券で展示も見ることが出来たので、
せっかくだしと、2階のコレクション展へ上がった。

こういうとき、企画展はわりと自分の中でハードルが上がってしまっているので、
もちろん感動はするものの、そこそこで終わってしまうけれど、
たまたま入った展示の方が、予想外に良くて驚くことが多いということは、
経験上なんとなくは分かってはいる。
しかし今回は本当に、コレクション展まで行って良かったと思った。
そこで僕は、橋本平八作品に出会ったのだ。

まずは壁に飾ってあった、何気ないスケッチ作品に目をとられ、
横の説明文、作者の経歴へを読んだ。
橋本平八は三重出身、夭折の彫刻家であり、
なんと、僕の好きな詩人、北園克衛の兄であることが分かった。
北園が三重出身であることは知っていたのだが、
30代半ば以降、帰郷しなかった弟・克衛とは違い、
その兄が晩年東京から三重に戻り、彫刻を作り続けたことは知らなかった。

この美術館は過去にも橋本平八を特に取り上げて展示していたらしく、
今回も一室が丸々、橋本作品の展示となっていた。
おそらく評価が高いのだろうと思われる、サイズも大きめの彫刻作品には、
個人的にはあまり目が行かなかった。

この前、『プレバト』という、芸能人格付けチェックと似たテレビ番組で、
料理研究家の土井善晴さんが、
「出来る人が敢えて、やらずに止める。これが難しい」
と言っていた。
橋本平八の小品や、何気ないスケッチからは、
<良い加減>という温かな空気が立ち上っていた。
どれも見ていて顔がほころんでしまうような秀作ばかり。

たとえば、「鳩」のあまりにストレートな表現。
「弱法師」は、そのサイズのまま、いまにも動き出しそうだ。
「老子B」がかもし出す、ひょうきんさといったら!

極め付きは「石に就て」。
本物の石と見間違うほど精巧に彫られた木と、
その横にはモデルとなった石自体が置いてある。
おそらくは技術の研鑽という目的もあったのだろうけど、
それ以上に、作品のナンセンスさからたちのぼる、笑いがあるように思えた。
きっと橋本もそこまで意図していたに違いない。



美術館を出てもまだ夕方だったので、
せっかくだからと徒歩10分くらいの県立図書館へ向かった。
高校生のころに、ホールには何度か来たけれど、図書館に入ったことはないように思う。
館内の案内図を見ると、2階の文学コーナーで、
「三重出身の詩人展」という常設展があるのを知った。
もしや、と、早速向かうと、案の定、北園克衛のコーナーがあったではないか。

ガラスケースの中にしまわれてはいるのだけれど、
北園が監修した雑誌『VOU』や、直筆の原稿用紙など、貴重なものを間近で見られた。
図書館所蔵の書籍であるので、申請すれば見られるかもしれない。
沖積舎の全集も収蔵しているようだった。
またゆっくりと訪ねようと心に誓う。

同じ展示場に、北川朱美という詩人が、
松阪市で発行している、詩の個人誌『CROSS ROAD』が置いてあった。
三重県にものこういう奇特な方がいるんだなと、感心する。

フロアを下がって図書館に入ると、三重県の出版物というコーナーを見つけた。
予感があって棚を探していると、案の定、
先ほど展示されていた北川さんの個人誌の2~4号が置いてある。
僕は、詩の良し悪しはあまり分からないのだけれど、
それぞれの巻末にある、ジャズメンについてのエッセイと、
東京の紀行文はとても面白く読ませていただいた。


なんとなくで出かけて、思わぬ収穫をえて嬉しい一日だった。
昔の僕だったらまったく気にもとめなかったであろう本や作品に、
知識と経験を得た今の僕は、感動することができる。
若く新鮮な気持ちは少なくなっていくかもしれないが、
たぶん、それも悪くないことなのだと思う。

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Comment

えこ | URL | 2016.03.09 14:20
私は知識も経験も浅いんですけど、楽しめるでしょうか……。
いや、なんでも楽しいですけども、もう少し色々身につけたいものですわ。
ソントン | URL | 2016.03.11 09:48
いやいや、もう充分におありでしょうに。
えこ | URL | 2016.03.11 20:21 | Edit
たまに、自分の人としての浅さにオエッってなる。
自信満々に生きている人ってすごいね。
それがたとえ間違っていたとしてもすごいと思うのよ。
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